広島・前田健太が覚醒した秘密

覚醒――といっても過言ではない大成長を遂げた今年の前田健太。
2010年の前半戦で早くも10勝の大台を超え、防御率も1点台と、セ・リーグの投手タイトルを総ナメにしている。
この劇的ともいえる変化の要因とは?昨オフ中に何が起こったのだろうか?


前田投手が言うには「いや、特にオフ中に何があったというわけじゃないんです。
実際、開幕から2戦目までは、去年までの自分でしたからね」

開幕投手を任され、2戦目まで1勝1敗。特に敗戦投手となった2戦目は7回5失点、
被本塁打2本と低調だった。
「だけど3戦目のヤクルト戦、田中浩康さんに投げたストレートで、“ある感覚”を掴んだんです。あんな感じは初めてでした」
“マエケンの快進撃”は、ここから始まった。

投手の間でよく言われるピッチング術の極意に、『脱力状態のフォームからリリースの瞬間、全身の力を指先1点に込める』というものがある。球は速度とキレが増し、制球も良くなる。前田はかねてからこの投げ方を模索してきたが、練習で完成を見ることはなかった。

「それを試合中に掴んだというわけです」
ストレートが良くなれば、必然的に変化球も活きてくるわけだが、前田といえば、大きく縦に割れるカーブが代名詞だ。しかし現在ではカーブをあまり投げず、代わってスライダーが決め球になっている。「スライダーがモノになりだしたのも今年からですね。プロになってから投げだしたんですけど、最初はすごく苦手な球だったんです」
プロに入り、苦しい場面で三振を奪いたいとき、ストレートとカーブだけでは厳しいと悟った前田は、大先輩の佐々岡真司らにアドバイスをもらいながらスライダーを習得していった。現在では、同じ握りでも手首の角度などを変えることで、大きい、小さい、速い、遅い、といった各種スライダーを投げ分けるまでになった。
「だから、相手がスライダーが来ると分かっていても気にはならないんです。待っているところを違う変化でいったり、あるいはストレートでいったり、勝負できる自信はあるんで」 “マエケンの覚醒”は、昨日今日起こったことではなく、日々の努力と向上心から導き出された“投手としてのあり方”が帰結したものだった。
元広島監督の達川光男氏も、前田の活躍は、この4年間の積み重ねがあったからだという。
「入団したときは 135キロ程度しかなかったストレートが150キロになったのも、彼の揺るがない努力の賜物。最近のピッチャーはツーシームやカットボールといった動く球に傾倒しがちだけど、彼はあくまでもストレートにこだわった。  普通オーバースローのピッチャーは、“なるべく高く腕を上げろ”と指導されるんだけど、彼はグラブから球を抜いた後、なるべく球を低く低く持つようにした。そうすれば反動で腕が高く上がるのはもちろん、軸足にしっかりタメが効いて、しかも右太ももに球が隠れるから、バッターとしては極めて打ちづらくなる。これは彼なりに考えて作り上げたもんだと思うよ。
ケガをしない柔らかく正しいフォームに、勝負所を見逃さない投球術、そして藤川球児にしか投げられなかったホップするようなストレート。もうケチのつけいようがないんだけど、強いて言うならばまだ重心が高い。4年前から比べると随分と沈んできたけど、これから自然に低くなってきたら、もう手が付けられなくなると思うよ。私も随分色んなピッチャーを見てきたけど、広島どころか球界を代表するエースになるんじゃないかな」
そんな“エースの自覚”が感じ取れたのが、2010年5月15日の日ハム戦だった。ダルビッシュと0-0の息詰まる投げ合いを演じ、完封で勝利した。ダルビッシュもセ・リーグの新エースを認めたのか、前田が打席に入ると、“これを見ろ!”と言わんばかりに、持っている球種のすべてを投げ込んだ。
「ずいぶん色んな球を投げてくると思ったんですよ。あとからそんな意図があったのかと分かって、何だか光栄でした。ダルビッシュさんとの投げ合いは本当に楽しかった。普通、早いうちに味方が点をとってくれた方がありがたいんですけど、あの時だけは0-0でもいいやって思えたんです。ずっとこのまま投げていたいなって」

超一流にしか理解することのない心と技の交流――マエケンは確実に今年、大投手へと向かう未知の領域へと足を踏み入れた。


 


 

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